毛ピソード1:登場!脱毛天使ケノンちゃん
「パカオは駄目なやつだなぁ。ムダ毛に脳の栄養とられてるんじゃないのか?」
会社の所長のひと言に、オフィスが盛り上がる。ただ一人、困ったような顔をして笑うパカオを除いて。
パカオは小さい頃から体毛が濃い。そのせいで、学校ではクラスメイトに、会社員になっても上司、同僚にバカにされ続けていた。
いつかこの社会を壊してやる。
ぜんぶ破壊してやる。
好きでこんな毛を生やしてるんじゃない。勝手に生えてくるんだ。
所長もほかの奴らも関係ない。みんなぶっ潰してやる。
いつしかパカオに、そんな暗い思想が芽生えていた。暗い思いは心の奥底に数年にわたり熟成し、時には夢の中で現実味を帯びてることもあった。
それは、パカオが犯罪に手を染めるか否かの間際のことだった。パカオの友人がいい笑顔で量産型脱毛天使ケノンを勧めてきたのだ。
普段、いい話にはなかなか騙されないパカオだったが、この話には飛びついた。世界を憎みながらも、彼は救いを求めていたのだ。
ケノンが届いたとき、その丸く白く整ったボディとピンク色のスタイリッシュな文字デザインがパカオの小さく小汚い部屋で異様な雰囲気を放っていた。
「やあ、わたし脱毛天使ケノンちゃん。あなたの体毛悩殺しちゃうね!」
ケノンのその小さな体から強いメッセージが飛び出て、パカオは少し戸惑いを覚えた。
毛ピソード2:ケノンちゃんは激しい攻撃をした
その日から、ケノンちゃんとの共同戦線が
開始された。
パカオが処理したいムダ毛の場所にケノンちゃんの触手を持っていき構えると、ケノンちゃんから強い光が発せられた。
「これはケノンちゃん光線。贖毛の光。不要な体毛達に毛を贖う機会を与えてあげてるの」とケノンちゃんは微笑んだ。
パカオにも犠牲はあった。
ケノンちゃんが発光するたびに、輪ゴムで肌の弱いところを弾かれたような痛みが走った。
「発射前に冷やしておくといいわよ」と事前にケノンちゃんからアドバイスをもらっていたが、それでも痛いときがあった。
だがパカオはそれでも戦いを止めなかった。この男は必死だった。
毛ピソード3:パカオとケノン、ふたりの親密度が上がり?
ふたりの間には諍いもあった。
「ケノンちゃん、効いてないじゃん!」
ある日、パカオが言った。ケノンちゃんと暮らすようになってから、2週間ぐらいが経っていた。
腕や脚でケノンちゃんとの共同戦線を張っていたのに、いつも翌日には毛が顔を出してくる日が続き、パカオは苛立っていた。
「彼らには……」ケノンちゃんが口を開いた。
「ムダ毛たちには毛を贖う時間が必要なの」
いつもとは違う、神妙な面持ちでケノンちゃんは続けた。彼女の顔には、天使というより、女神のような表情が広がっており、パカオは思わず目をこすった。
オラの見間違いとちゃうか?
パカオとケノンちゃんはふたたび戦地に戻り、戦いを続けた。
そして最初に戦いを開始してからひと月目、前線に異変があった。
「毛……がいない」
いつもなら翌朝に見えていた憎き毛の頭が、その日は確認できなかった。
喜んだパカオがケノンちゃんのほうを見ると、ケノンちゃんは静かに笑っていた。
信頼度は親密度へつながっている。
パカオのケノンちゃんへの気持ちは募り、またケノンちゃんもそれを受け入れた。
パカオは己の秘部にもケノンを招き入れた。 そしてふたりは……。
(おおっと、この先を知りたがるのは、粋じゃないですぜ)
脱毛天使ケノンちゃんの登場により、パカオの人生は一変した。
もはや誰もムダ毛が濃いなどと彼を馬鹿にする者はいなくなった。
パナオ自身も、自分のコンプレックスの元凶であったものたちが視界に入ることがなくなり、心が軽くなった。
暗い考えは消え、ある日、パカオは人生で初めて短パンを購入した。


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