終止符。それは光で始まる。
薄暗く質素な一室。
その中に立つ巨人は、絶滅の光を放つ剣を手にしていた。
その目は血走り、憎しみの感情がすべての一点に集中しているようだった。
ムダ毛……。
こいつらもついに年貢の納め時だ。
巨人は冷たい視線をムダ毛に投げかけた。
どれだけ手こずらされてきたというのだ。
その間に我が受けてきた辱め、孤独、そして怒り。
Life is beastful.
それが終わるのだ。長年の宿命に終止符を打つのだ。
巨人の右手の人差し指が動いた。
いま、まさに絶滅の光が発せられようとしていた。
ムダ毛伝説
きっかけは、巨人が11歳のときだった。
その朝、刺さるかのように睾丸に垂直に立っている一本の黒い線に巨人は気が付いた。
埃か何かかと試しに弾いてみても、その短い線は位置を変えようとはしなかった。
引っ張ってみてようやく、それが頭や眉に生える毛と同じく、体内から生えている毛であると巨人は理解した。
その日を境に、巨人の世界は一変した。
日を追うごとにあちらこちらから毛が顔をだしてきたのだ。
長老たちは言った。そして古に生きた者たちの書き残した書物にも同じことが書かれていた。
我々はある年齢に達すれば、その体内から毛が生え始める。毛は初めは頭部や眉、そして目の周りを覆いその領土を守る盾となる。しかし、中にはそれ以外の場所を覆おうとする毛が現れるときがある。その毛はムダ毛と呼ばれ、その毛を持つ者は世界を不幸にする宿命を担う者になろう。
巨人はその伝説に絶望した。
このことは周りに知られてはいけない。隠し通さなければならない。
しかし無情にも、ムダ毛は巨人の体を覆っていった。
そしてある日、破滅の日、その時が訪れた。
村の学びの場の掟で、上腕および脛の出る服を着なければならない季節がやってきた。
巨人のムダ毛は白日の下にさらされた。
そして巨人は聞いた。
日焼けしているのであろうか、という皮肉めいた村の娘の声をしっかりと。
ムダ毛転生
それまで幾度もの死闘が巨人とムダ毛の間で繰り広げられてきた。
村娘に言われた言葉と似たような言葉が、石礫のように何度も巨人には投げられた。
巨人は狂ったようにムダ毛と戦い続ける必要があった。
それは、刈っても抜いても溶かしてもムダ毛たちが翌日には息を吹き返してくるからだ。
しかもそれだけではなかった。
ムダ毛と死闘を繰り広げた場所には、別のムダ毛が咲くことがあった。
つまり、元のムダ毛と新たなムダ毛が同じ場所から生え、一本が二本に、二本が三本にと、あたかも花が花弁を広げるかのようだった。
ムダ毛は転生している。
そしてより俺を苦しめようとしている。
黒く渦巻いた心の澱が巨人を満たしていった。
伝説の剣・ケノン the 家庭用脱毛器
巨人とムダ毛の戦いは20年以上も続いていた。
巨人の心はどこかすでに冷めていた。
この戦いに終わりはあるのか?
日々繰り広げられ、それでも終わりの見えない戦いのはてに何が待っているというのだ。誰にも認められず、ただ戦ったという記憶だけではないのか。
暗澹とする思考。霧がかかったように先の見えなくなった明日。
そんな暗闇を払うかもしれない話を巨人はその日聞いた。
伝説の剣ケノンの存在である。
ケノンを使ってムダ毛と戦うと、ムダ毛たちの復活を阻止できるようになる、そんな話を巨人は聞いた。
それから数か月後、調査、資金調達、そして費用を使いケノンを手に入れた巨人の姿がそこにはあった。
ムダ毛……。
こいつらもついに年貢の納め時だ。
巨人は冷たい視線をムダ毛に投げかけた。
巨人がケノンを握ったその瞬間、ケノンの切っ先から一瞬の光が照射された。
刹那、巨人の体に痛みが走った。
我慢できない痛みではない。そして、その痛みが存在することを調査報告からすでに知っていた。
尊い未来のためには犠牲も必要だと巨人は言った。
この憎しみの連鎖を断ち切る。
強い意思が巨人を突き動かした。
ケノンを使ったムダ毛討伐は、数か月に渡った。
伝説のとおり、ムダ毛たちの復活はなくなっていった。そして伝説のとおり、それは一朝一夕でできるものではなかった。
やがて巨人は、痛みにも慣れていった。
そして巨人の世界には、平和が訪れた。
ムダ毛達の転生はなくなり、巨人からムダ毛がなくなった。
巨人には称賛の声が浴びせられるときもあった。
しかしなにより、巨人は思った。我の心が平穏になったことが一番である。
悩むことなく腕や足の出る衣服を買った巨人の姿がそこにあった。


コメント